● 展覧会 Exhibition

見える見えない展覧会 

日時2016 3月1日(火)〜3月6日(日)
時間10:00〜18:30(入館18:00まで)
場所札幌資料館ギャラリー4 2F
対象一般公開
入場無料

会場の札幌市資料館にには少しこだわりがあって、このプロジェクトの発想のきっかけがこの写真の目隠しをした女性です。アクセスが良いことや、過去に何度かここで展示や活動をしたのもありますが、彼女は元控訴院という建物のシンボルでテミスと言う女神さまです。見た目にとらわれず、真理を見抜き公平にジャッジすることを象徴しているということですが、彼女の力を借りて、情報や表面的な事物に流されず、一度踏みとどまって、改めてしっかり「見る」ことを考えたいと言う動機付けになっています。

展示の基本構成

会場は暗闇にしようと考えていました。制作と展示の部屋を二つ確保できなかったという反省がありますが、最終的には、日中は、ブラインドで調節した自然光で、日没後は電球のわずかな光で空間を構成しました。希望者にはアイマスクを渡し、会場を入って右側(南側)の壁に沿ってやきもの作品を展示し、その対面(北側)には平面制作ワークショップの見えないスケッチをその場で展示していきます。これらの作品は触覚をたよりに鑑賞をします。



その二つを緩やかに仕切るように半透過のスクリーンに11月のやきもの制作のインタビューと、鑑賞会の対話の映像をプロジェクションしました。この仕切りは、視覚的には区切られているが、物質としてはほとんど区切られていないという「見える」と「見えない」の間、また、映像と光の中間領域を表しています。これについてはまたクロストークでも述べます。合わせて記録した音声を編集して一方はスピーカーから、一方はプロジェクターから再生しました。これは、記録というより、目隠しをしたときの音による空間把握と、「聴く」こともかなりの部分を視覚に頼っているということを、ある種の聴きにくさ(混線)を際立たせることで表現したいと考えました。

ふれて鑑賞する

もう一度鑑賞の機会を設けたいとも思っているので、やきものに関してはあえてここではアップしません。反省点としては、制作のワークショップを優先してしまったために、当初考えていた完全な暗闇での鑑賞体験は実現しませんでした。それに関する説明も不足していたし、少し内向きな内容になってしまいました。音声でのインタビューを流してはいましたが、暗闇での鑑賞が実現しないと判断した段階で、作品一つ一つに点字も含めた解説が必要だったと思います。鑑賞と制作がセットで個人的な経験である以上、これをどれだけ鑑賞者に共有してもらえるかが課題であり、この二つを両立させるためには、サポートスタッフを増やし、制作者の立ち会いや、鑑賞に特化した時間と空間を確保する必要があると思います。成果としては、晴眼の参加者からは「触覚の記憶と言えばいいのか、脳の普段使わないところがが呼び起こされるようで面白かった」と感想をいただきました。見える見えないに関わらず、さまざまな作り手同士が、視点、アプローチ、制作プロセスを共有する時間が自然とできたのが良かったと思います。焼き上がりイメージと実物とのズレと、個人個人の感じ方のズレ、この二つのズレ(認識の違い)を鑑賞を通して、楽しんでいたのが印象的でした。

ふれてつくる平面制作ワークショップ




制作ワークショップの流れ

会期中、鑑賞者には展示の意図を説明し、制作ワークショップのご案内をしました。最大で12人の方が同時に、合計でおよそ50名の方がワークショップを体験していただきました。参加者にはまず見えない状態で制作してもらうことを告げ、自由なテーマで描いてもらうか、こちらで用意したモチーフをふれて描くかを選択していただきます。貝がら、鹿の角などの自然物や、ペットボトルなどの人工物を用意しました。画材は見失わないように一つのトレイに入れ、準備ができたら目隠しをしてもらい、モチーフを手渡します。制作時間は特に決めず、各々自由な時間で制作をしていただきました。その間スタッフがサポートします。

点と線、光と影、色について



上質紙、太さ2mmのラインテープ、9mm径の円いタックシール、はさみを用意します。福祉施設に見学に行った際に実際にやっている方法をご紹介していただいたものを自分なりにアップデートした方法です。まずはデッサンを描くように、形をとらえるラインテープの線描と、円シールでの点描で光と影を表現するという想定で、白には白、黒には黒で描いていただきました。これは、色の要素を加えると複雑になると考えられたのと、展示の際に、鑑賞者にとって遠くから観ても何が描かれているかわからず、画面を近づいてよく「見る」ことを促すと同時に、触覚の鑑賞を促すという意図があります。また、完成後にタイトルを決めていただいて掲示したのですが、統一したモノトーンの画面と、描かれた内容のギャップも楽しんでいただけたと思います。



 ワークショップを進める中で、生まれつき見えない方と中途失明の方では、大きく描き方が違うということがわかってきました。中途失明の方や、目隠しをした晴眼者は、記憶の引き出しから具体的なイメージを取り出して投影したと思われる絵が多いのですが、先天的な全盲である吉田さんは、線と線の交わりを多く作ろうとしていて、それは、落ち着きや安心感のような温かさがあるからとおっしゃっていました。具体的な視覚イメージを持たないために、具体性や遠近法によるリアリティなど、見える人とは違った抽象的な空間性そのものをテーマに描こうとしていて大変興味深かったです。

記憶から描く

もうひとつ興味深い例をご紹介します。中途失明で全盲の越山さんは、芸術の森美術館の鑑賞会で「見た」作品を、他者の言葉から得たイメージをもとに再現して描いていました。簡単に言うと記憶の絵しりとりみたいなものです。ご本人はどれだけ元ネタを再現できているかに興味があったかも知れないのですが、僕が興味を持った点は、オリジナリティや多様性についてです。
 この作品を考えてみましょう。まず、基になる作品の作者、そして、その作品を言葉で解説した翻訳者、実際に手を動かし制作した越山さんの三者よって作られています。つまり、この作品には、素となったオリジナル作品のイメージやメッセージと、解説した人たちの見方と、越山さんしかできない描き方が刻まれているのです。ですから、この作品には誰のものと言い切れない面があります。100%オリジナルではないし、逆に100%コピーでもありません。裏返せば、本来的に作品を一人の作者の意図やオリジナリティで語るのは難しいのです。百人いれば百通りの見方があり、言い換えれば百通りの作品が頭の中で作り上げられているとも言えます。それは「鑑賞」する側の創造力に委ねられているのです。ですから、鑑賞という行為自体が創造的な行為だと考えることができるし、先に述べたその違いやズレを、それが芸術作品であるかどうかということをいったん棚上げして、作者と鑑賞者ということを超えて楽しむことがアートの本来的な楽しさにつながるのではないかとも思っています。楽しげに「遊びですよ」と語る越山さんの試みはそのことを後押ししてくれていると勝手に解釈しています。

素材について



もうひとつ、ワークショップを即興的に行いました。素材の異なる太さ15mm程ある医療用テープとクラフトテープを用意しました。形や陰影だけでなく素材感とモチーフとの関係性を探る試みです。これらのテープは大量に用意することはできなかったので、ステップアップして大きいサイズに挑戦する人がいるかもと考えて用意していたのですが、お一人で参加された方にはこだわって白がいいという方がいらっしゃったので作っていただきました。できた作品が写真右です。「憂鬱なヤドカリ」というタイトルで、触覚のグラデーションや構成が視覚的にも面白いなと思いました。A3サイズほどの作品を作るだけでも相当な集中力と時間が必要で、完成すると皆さんかなりぐったりという状況でした。スペースの問題もあって各々が大きな作品を作るというのはやめて、10人ほどで、前の人が描いた画面に触れた印象をもとに、同じ画面に即興で描き加えていくことにしました。ここでも応用版絵しりとりの仕組みを使っています。「触る」と「描く」を繰り返しながら描いていくので、そこにはある種の誤解からくる組みモチーフや素材の組合わせが生じます。例えば柔らかいテープでハートを描かれたハートを、雲だと感じた人が雨を降らせたという具合です。ここでもやはり、見えないことによるミスリーディング(ズレ)から興味深い対話が生まれていました。



目的と無目的

作者と作品は切っても切り離せない関係であり、作者不在のアートはありえないと言う考え方もあります。けれども、鑑賞する人、つまり「見る」人がいなければ、作品は成立しないのも事実です。それは、美術館の鑑賞者であり、批評家であり、コレクターです。一ついえるのはアートは作る人だけのものではないということです。見られることによって初めて、単なる「もの」がアートになるのだと思います。ですから、優れた作品には多様な見方ができます。今回の一連の取り組みを振り返ると、視覚優位のアートにおいて、「見えない」という根本的な体験を通して、個人個人では完結しない共依存の仕組みを浮かび上がらせ、アートの作法や目的をいったんリセットします。そこから、同じスタートラインに立って創造力を出し合い、シェアすることで、多様性や違いを許容するという新しい共創の形を模索し考えることにつながっていくと考えています。それは一つのアートのあり方を示しているのではないでしょうか。


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