title 見える見えない VISIBLE/INVISIBLE

 ● 鑑賞会 Appreciation

見える見えない鑑賞会 〜手で触れず、感性でふれあう〜

日時2016年 2月27日(土)、28日(日) 14:00〜 
場所芸術の森クラフト工房



はじめに

“見える見えないにこだわらない鑑賞会”という幾分突飛なふれこみで2回鑑賞会を企画しました。障がい者、一般市民、新人アーティストの参加が条件で、できるだけ開かれた形で、三者を結びつける場を創出することがミッションとしてありました。この中で実現したかったのは、「お互いによく知らないから」「当事者じゃないから」触れちゃいけないという意識、緊張からくる「しこり」を取り払うとまでは行かなくても、対話というマッサージでほぐすようなイメージです。机上ではなく、実践を通して多様な価値観を楽しみ、お互いにできることできないこと(見えること見えないこと)に触れ、対話を繰り返すことで、血流がスムーズになっていい感じに温まり、循環が良くなって、いい形の公共性みたいなものが見えてくるのじゃないかと言う個人的な期待もありました。また、やきもの制作では実現しなかった、体験や価値観のシェアに比重を置きたいと言う考えもありました。まず3つの具体的なゴールを設定しました。

1、視覚障がい者にとってあまり足を運ぶことのない美術館で、特にふれられない平面作品の鑑賞機会を作ること。

2、美術鑑賞の面白さを伝え、同時に考える機会をなるべく多くの人に提供すること。

3、“敷居の高い”美術館の雰囲気や空間(ある種の暗黙のルール)を、対話による鑑賞を通して一時的に解放し、多様な価値観や見方があることを知る機会とすること。

4、新人アーティストや福祉関係者が「場」のコーディネートを通して、多様な意見や価値観に触れることで、客観的な視点を学ぶ実践的な機会になること。


 芸術の森美術館で開催されていた展覧会「札幌美術展 モーション/エモーション 〜活性の都市〜」を鑑賞しました。この展覧会は、都市のありようを表現するというテーマで、油絵、写真、油絵などの平面作家6名、インスタレーション3名、計9名の作家を紹介する企画展です。
 視覚障がいを持った方と晴眼者の美術鑑賞は、全国に盛んに行われていますが、まずは自分たちで考え、組み立てていくプロセスを大事にしたいということもあり、既存の仕組みや手法をを取り入れて、マニュアル化することはしませんでした。というのも、企画段階からアドバイスしていただいた視覚障がい者の方々の意見やアイデア尊重したいのもありますが、参加者の関係性を見ながら、偶然を取り込みながら可変的に作っていくチャレンジが面白いと思ったからです。一回目は一般公募ではなく、NPO法人札幌オオドオリ大学の協力をいただいて、学生登録をしている市民から参加者を募り実施しました。2回目は広く一般に参加者を公募し、参加人数が違うこともあって、全く違う進め方になりました。27日はオオドオリ大学でレポートを書いていただくとして、ここでは35名が参加した28日のようすをアップしたいと思います。

受動から能動の鑑賞へ
 可変的とはいえ、基本的なルールは必要なので、まずは、インストラクターをしている小宮さんに、白杖など視覚障がい者の手引きの仕方をレクチャーしていただきました。視覚障がい者1名を軸に、3人一組になって鑑賞する形です。ひと作品ほぼ10分、計2時間で見えている方は言葉で作品を解説し、見えない方はイメージを確かめながら、言葉を互いに重ねて作品を見ていきます。休憩を挟んで参加者でシャッフルを行います。アイマスクを用い、少なくとも見える方も一度は擬似的に見えない状態で鑑賞をする体験をしてもらいます。また、キャプションは全く読まないか、読んでも鑑賞し終わってからというルールを設けました。視覚障がいといっても、視界が極端に狭い方、ぼやけている方、全盲でも先天か中途かで見え方は大きく異なるでしょうし、また、イメージの仕方もかなり違うと考えられます。まず人がどう見えているか(どのような語彙を持っているか)を想像しながら見る(もしく言葉にして話す)ことが求められます。つまり、他人の目や口を通して作品と向き合うことになります。美的な何かを受けとる行為だと多くの人が思っている美術鑑賞が、こちらから一歩を踏み出す能動的なアクションにかわります。言ってみれば、それは間接的な思考やイメージのシェアであり、おそらく多くの人が体験したことのない、ある種の信頼関係に基づいた多様な感性の触れ合いが起こります。チームの中でどのような対話が成され、関係性が作られたのか、すべてを把握することはできませんし、記録することもできません。ですので、2回目の観賞後アンケートを当日の写真を交えてそのままご紹介させていただきます。
 ご参加頂きました皆様、札幌芸術の森のスタッフの皆様、そしてご協力頂きましたすべての方にこの場を借りて感謝申し上げます。
 ありがとうございました。



『目の見えない方がいて初めて気づいたことがたくさんあり、視野が広がりました。自分で言葉にするのが難しい時に、吉田さんや大道寺さんがうまいゆう導をして下さり、大変ためになりました。ありがとうございます。
 次回も楽しみにしています!』

『たのしかったです!
久しぶりにこういう企画に参加して伝えることの難しさ、自分には見えないもの、見えているものが人には見えていないことをわかることなどいろんな感情と思考をめぐらせることができた時間でした。
戸惑っている人や、やり方がわからない人、難しく考えてしまう人がいると思うので、はじめに簡単なデモがあってもよいかなと思いました。』



『藤本さんの紹介で、興味をもって参加させて頂きました。視覚障がいの方とふれ合う機会が全くないので、ふれ合ってみたいと思い参加させて頂きました。1日目、2日目両日参加させて頂きましたが、1日目には1日目の楽しさ、2日目には2日目の楽しさがありました。
1日目はとにかく新せんで、ざんしんで何をしたらいいのかわからなくて、介助もわかりませんでした。2日目には少しよゆうができました。楽しむ気持ちが増えました。介助も少し覚えたので、今後も勉強したいと思いました。新しいしげきをもらえた両日でした。ありがとうございました。また参加させて下さい。』

『どんな感じかわからないまま参加したのですが、純粋に楽しかったです。見えない方に「説明する」難しさを痛感しましたが、同時に“見えるものがすべて”ではないことにも気づきました。
普段目にするものはほんの一部でしかなく、もっともっと心の目で物事をとらえることが大事だと思いました。同じ物を見ても、見る人の感じ方によって見え方がかわる、ということに改めて気づかされました。
 もう少し時間的余裕があるともっと楽しめたかなと思います。 』



『自分の見ている感想と一緒に歩いている方との違いを感じました。自分の直感が大事だと思いました。すっごくおもしろかったです。(それぞれのアーティストの方の作品が個性あふれているので)説明する方のご苦労もわかりました。こういう企画はとっても良かったです。見える人見えない人が一緒になって、直感を大事にするのは良かったです。自分の好き嫌いを素直に言えるのは楽しかったです。絵を見ることによって心が豊かになった様な気がします。立つ位置によって、見え方が違うのがおもしろかったです。(すみの木の所*)』

*楢原氏のインスタレーションだと思われる

『想像のできない部分もありましたが楽しい経験ができました。
美術館にいく方々の感性!
説明される方の感性の影響というものを実感しました。』

『見えない方への鑑賞ガイドは、伝えることがとても難しく、何を伝えるべきか、自分自身がどう見ているか再認識するきっかけにもなり、良い勉強になりました。』

「説明がすごくたいへんだと思いました。たとえる物のボキャブラリーのなさと、言葉にする難しさを知りました。時間がすぎるのがとても早く緊張しましたが、すごくたのしかったです。』

『1日目と2日目で、絵の印象が変わったように感じました。2日目の方が、少し余裕を持って参加できた思います。
 同行援護の資格を2年前に取り、ペーパーの状態だったので、今回学んでおいて良かった感じることが出来ました。
 視覚障害の方も、説明の受け止め方色々とあり、「言い」の大切さを感じます。ありがとうございました。』

『楽しかったです。私自身が絵を見てどのように反応するかに興味がありました。
 体験中、イメージがわいてきて、気持ちがたかぶるようでした。とてもよい体験をさせていただきました。ありがとうございます。
 また機会があれば参加したいです。』

『大変おもしろかったです。
 人に伝えることもむずかしかったです。ボキャブラリーとか。
自分がアイマスクをしてたいけんすることは初めてだったので暗くて恐い!とも思いましたが、周りのアドバイスで安心できました。感覚が違いました。音や空間の広さなど。
越山さんが同じ作品でも説明する人が違うとイメージが異なるといってましたので、伝える側の好みも作品に影響を与えるのだと感じました。もっと多くの方にPRして、知ってもらいたいイベントだと思いました。』

『ユニバーサルデザインという授業でアイマスクをしたり、誘導の体験などしたことはあったのですが、今回のワークショップはもっとリアルで、かつ「目の不自由な方にアートを伝える」ということの難しさを身をもって実感しました。
 そして、自分の語い力や表現力がつたないことにすごくみじめさを感じたので、精神(進?)したいなと思いました。素敵な機会をありがとうございます。』

 


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